2026/08/11
世界でも有数の花火大国・日本。全国で年間約1,000件の花火大会が行われているといわれている。7月~8月はそのピークで、全体の7~8割がこの時期に集中している。しかも台風の時期を避け涼しい天候の中で楽しんでもらおうと、9月〜11月に行なわれるいわゆる秋花火も増え、さらに12月~3月の空気が澄んだ冬の絶景も楽しむ冬花火もお台場、河口湖、山岳リゾートなど、空気が澄んだ冬の絶景を楽しむイベントとして定着している。
そんな中で異彩を放っているのが毎年4 月に開催される、日本を代表する“花火師BIG4”が揃う『The絶景花火@Mt.Fuji』だ。今年も4月25日に『The 絶景花火「Mt.Fuji」2026〜日本の極み 古今無双〜』と題して、山梨県・ふじてんリゾート特設会場で行われた。

『絶景花火』が異彩を放っている理由――まずそのロケーションと設計思想にある。世界遺産・富士山の敷地内、一合目に位置するという、世界でもここにしかない舞台。1万人以上を収容できる敷地にあえて約3,000席のみを設定し、全席有料・完全予約制とすることで、混雑や場所取りとは無縁の贅沢な鑑賞環境を実現している。そして打ち揚げ場所と観覧席の間を遮るものがないため、視覚だけでなく、轟音や火薬の匂い、地を伝う振動までも味わえる“完全感覚花火”というコンセプトも、この大会ならではの強みだ。

そして近年顕著なのが、インバウンド需要の高まりだ。今年も観客の1/3はインバウンドだった。雪がまだ残る富士山と周辺の桜、そして世界最高峰の花火という“日本らしさ”を凝縮した体験は海外からの評価も高く、VVIP・VIP席には特別な観覧空間とともに寿司をはじめとする日本の美食コンテンツも用意され、チケット価格は数万円〜二十数万円台に設定されているが、それらは先行発売の段階から次々と完売を記録。「単なる夏の地域イベント」ではなく、「世界に誇る日本のラグジュアリーな文化体験」として完全に再定義されている点に、この大会の先進性がある。
全国の花火大会の多くが無料開放・大人数を前提とし、場所取りや人混みが風物詩の一部となっている中、『絶景花火』は「有料・少人数・高付加価値」という逆張りの設計で独自のポジションを築いてきた点も見逃せない。加えて、全国の花火大会の中でも屈指の近距離で鑑賞できるエリアが用意されており、ほぼ頭上で花火が開花し、まるで降りそそいでくるように立体的に感じられる臨場感は、他の大会では味わえないものだ。混雑とは無縁の贅沢な空間性と、五感で受け止める圧倒的な近さ――この相反するようでいて両立する体験こそが、開催を重ねるごとに国内外の注目度を高めている最大の理由だ。

『絶景花火』はわかりやすく、かつ唯一無二のコンセプト “日本を代表する絶景ポイントで、最高の花火を”を掲げ、2020年(プレ開催)にスタート(2021年は中止)し今年で5回目だ。日本を代表する“花火師BIG4”の紅屋青木煙火店、磯谷煙火店、齋木煙火本店、菊屋小幡花火店が顔を揃え、さらに今年は、BIG4と並ぶ技術を持つゲスト花火師を迎え、行われた。日本最大級の花火大会の地、秋田県・大曲を拠点とした1899年創業の老舗花火会社で、キャラクター花火のパイオニアとして知られる「北日本花火興業」だ。
4月25日、例年より雪を多く残した富士山が静かに佇み、遅咲きの桜が会場周辺を彩る中、冷たく澄んだ空気が花火の輪郭と色彩をより一層際立たせる。標高約1200mの澄んだ夜気の中で見上げる花火は、平地のそれとはまるで別物の輝きを放つ。『絶景花火』は夕暮れ時に最初のクライマックスを迎える。幻想的な姿を見せる富士山を背景に、「富士の黄昏」と題してプロローグ花火を打ち揚げる。富士山に花が咲きほこる、まるで一枚の絵のような優雅さと美しさが浮かび上がり、客席から歓声が上がる。

そしてこのイベントの新たな軸となりつつある「手筒花火」が特別演目として登場。愛知・吉田神社発祥とされる日本最古の花火で、担ぎ手が火柱を全身に浴びながら立ち続ける勇壮な姿に、会場の熱量は一気に高まった。以降も、青く沈む富士の稜線を星々の光で彩る紅屋青木煙火店のスターマイン、東西の型物花火の名匠・磯谷煙火店と北日本花火興業による史上初のコラボレーション、色火を一切使わずに“究極の侘び寂び”を表現した菊屋小幡花火店のモノクローム花火、七色の光で富士に虹を架けた齊木煙火本店の演出など、各煙火店の個性がぶつかり合う構成が続いた。日本全国の花火大会を切磋琢磨しながら盛り上げてきた、いずれも創業百数十年を誇る日本を代表する花火会社の「共演」であり「競演」である場であることが、『絶景花火』のストロングポイントだ。

フィナーレは「BIG5」全社が技術と情熱を一本のスターマインに結集した「富嶽夢景」。富士の広大な裾野をキャンバスに、これまでの常識を覆す密度と色彩、地響きのような轟音が夜空を埋め尽くし、大きな拍手が沸き起こった。
初参加となった「北日本花火興業」は、スキー場特有の地形や観客との距離感によって花火の見え方が大きく変わることに、演出の難しさと奥深さを実感したという。それでも「雲の上に浮かぶような富士山の神々しさに、ふさわしい花火を」という思いで挑んだと振り返っていた。
伝統技術を重んじながら進化していく花火師たちのプライド、富士山という圧倒的な自然の美しさ、そして観客の心地よさを最優先した洗練されたホスピタリティ。これらが絶妙なバランスで融合し『The 絶景花火「Mt.Fuji」2026は、日本の花火エンターテインメントのひとつの到達点と言っていい。来年は2027年4月17日(土)、規模をさらに拡大して同会場での開催が決定している。“BIG5”がどんな進化を見せるのか、来春の富士山麓が今から楽しみだ。